社会学部
人間心理学科
江戸川大学では、3年次に所属したゼミナールで専門研究を行い、4年次には卒業論文を執筆します。各ゼミの指導教員は卒業論文のうち優秀な論文を優秀論文として推薦します。優秀論文発表会では、優秀論文を執筆した学生がプレゼンテーションを行い、最も優秀な論文が選考されます。
<論文概要>
自閉スペクトラム症(ASD)と注意・欠如多動症(ADHD)は異なる神経発達症であるものの、日常生活で抱える困りごとのカタチだけでは区別が難しいことや両者の併存が多いことが指摘されており、支援を考える上での難しさにつながっていることが指摘されています。そのため、一方もしくは他方に特有な特徴や両者が併存した場合の特徴を整理することは、適切な査定や支援にとって重要です。
この研究では、睡眠の質(不眠症状の有無)や量(睡眠時間)や位相(朝型/夜型傾向)に着目し、ASD、ADHD、ASDとADHDの併存で睡眠の諸特徴に違いがあるかを検討しました。なお、ASDやADHDは、近年スペクトラムという考え方がされており、それぞれの症状は診断をされている方とそうでない方で連続していると考えられています。このことから、大学生を対象に誰にでも多かれ少なかれあるASDの傾向、ADHDの傾向、両者の併存傾向と睡眠との関連を検討しました。
その結果、ASD傾向のみでは睡眠に関連が認められなかったものの、ADHD傾向は夜型化と関連すること、ASD傾向にADHD傾向が加わると位相後退(夜型化)がさらに強まることが見出されました。このことから、ASDやADHDを疑った際に、夜型化が認められることは、少なくともADHD傾向があることを示唆する可能性があると言えます。大学生を対象とした検討であるなど限界はありますが、今後の神経発達症理解の興味深い基礎資料が得られたと考えられます。
<選考のポイント>
先行研究を丁寧に批判的に検討し、リサーチクエスチョンをたて、丁寧な検討考察を行っている点が高く評価されました。また、プレゼンテーションも明確で聴衆に聞き取りやすいようゆっくりと要点を整理していた点も高い評価を得ました。
<論文概要>
困っている人に親切をしたにもかかわらず、残念ながら相手の役に立たなかったという事はしばしばあります。そして、人はこのような失敗(向社会的行動の失敗)を経験すると、その後、困っている人に遭遇しても親切をしにくくなることが先行研究から明らかになっています。本論文では、向社会的行動が失敗したときに、親切の受け手が、親切の送り手に対して感謝をしたかどうかによって、親切の送り手による将来の向社会的行動が生起されるのか、また、その心理過程を検討しました。
<選考のポイント>
問題設定の論理構成および問題設定から導かれる研究方法の妥当性が、研究として高く評価されたと思います。加えて、研究内で扱われている変数が多かったにも関わらず、要点を抑えて、結果から何が分かったのか、また、本研究から社会に何が提言できるかを明確に主張できた点も高く評価されたと思います。
<論文概要>
良い睡眠を得るために音楽を利用している人は多い(約60%)のですが、音楽を利用している女性では就寝時刻がむしろ有意に後退していました。そこで、実際に、音楽を利用した場合と利用しなかった場合とで睡眠にどのような影響があるかを実験的に検討しました。その結果、音楽を利用した場合には、中途覚醒が多く、熟眠感も低く、起床時の気分も悪化していました。このように就寝前の音楽利用はむしろ睡眠を妨害する効果があるのではないかと考えられました。
<選考のポイント>
福田ゼミではゼミ生の投票により優秀論文を選出しています。早川さんは、就寝前の音楽利用の調査を行ったのち、音楽の有無の効果を検証する実験も行いました。これらの実施・分析だけでも大変な事ですが、その労力だけではなく、得られた結果の意外性やとても分かりやすいプレゼンテーションも高く評価されたのだと思います。