さらに眠りが深くなると睡眠段階2と呼ばれる段階に移行すると(この図では分かりにくいですが)睡眠紡錘波と呼ばれる脳波(図中の少し濃く見える部分です)やK複合波と呼ばれる脳波が出現するようになります。この段階になると多くの人が自分自身が眠っていた事を認識できる状態となります。さらに眠りが深くなっていくと睡眠徐波(2Hz以下、75μV以上)と呼ばれるゆっくりとした大きな脳波が出現するようになります。その睡眠徐波の出現が、記録区間の20%を超えると睡眠段階3と呼ばれ、50%を超えると睡眠段階4と呼ばれます。
この睡眠段階3と4は、徐波睡眠と総称され、外からの刺激にも中々反応せず、起こせたとしても非常に「寝起きの悪い」状態です。以上の睡眠段階ごとの脳波の変化は、眠りの深さに伴ってゆっくりした脳波が多く出るようになる(徐波化と呼ばれます。)変化と考える事が出来ます。
図3 レム睡眠とノンレム睡眠。(Jouvet, M. The states of sleep.
Sci. Amer., 216, 62-72.及びAllison, T. and H. VanTwyver. The Evolution of Sleep. Natural History 79: 57-65, 1970より引用・改変。)
図4 REM睡眠の記録(Rechtschaffen, A. & Kales, A. A manual of standardized terminology, techniques and scoring system for sleep stages of human subjects. 1968, U.S. Department of Health, Education, and Welfare Public Health Service, National Institute of Neurological Diseases and Blindness Neurological Information Network Bethesda, Maryland より引用)
一方、こうした眠りとは異なる睡眠が存在します。図3の左端のネコは覚醒中のネコです。中央と右端のネコは眠っています。下半分は脳波などの記録を表し、一番上は「眼球運動」二段目は皮質の脳波、三段目は海馬の脳波、そして一番下は姿勢を保持する筋肉の緊張状態を表しています。眼球運動の記録でとげのように見えるのが眼球運動です。通常、眠ると眼球運動は停止します(中央)。皮質脳波はゆっくりした大きな波が増え、筋肉の緊張は低下します。このためネコは姿勢を保てなくなっています。これに対して右端のネコでは、覚醒中に認められるような速い眼球運動が出現し、皮質脳波は、覚醒状態とは言わないまでも浅い睡眠状態を表しています。これだけを見ると右端のネコは覚醒に近い状態にあるように見えますが、覚醒と違うのは、筋電図の状態が中央の睡眠中のネコと比較してもさらに低い状態にあるという事です。つまり、眼球運動と脳波は浅い睡眠状態を表していながら、筋活動はほとんどゼロの状態という矛盾した状態を示しています。この睡眠状態をレム睡眠と呼びます。レム睡眠のレム(REM)というのは、速い眼球運動の英語Rapid Eye Movementの頭文字をとったものです。また、矛盾した状態の睡眠と言う意味で逆説睡眠(paradoxical sleep)とも呼ばれます。レム睡眠とノンレム睡眠の二種類の睡眠があるとの解説を散見しますが、ノンレム睡眠という言葉は、レム睡眠以外の睡眠段階1から睡眠段階4までの異なる睡眠段階の総称であって、単一の睡眠を表しているわけではありません。図4はレム睡眠の脳波などの記録を表しています。上の二つが眼球運動、中央が筋電図、そして一番下が脳波を表しています。図中の矢印が急速眼球運動を表しています。一番下の脳波の下線部分は、レム睡眠中に良く現れる(のこぎりの歯の形に似ている)鋸歯状波(saw toothed wave)を示しています。
次回は、一晩の眠りの経過などについて解説します。